2010年08月12日 17:43
アメリカの哲学者・心理学者 ウィリアム・ジェームズは
「この世では、すべて観点にかかっているのである。」と言っている。
何らかの高い価値を持つものを、無批判に受け入れる傾向が人間にはある。
このことを威光暗示という。
ヒトラーから人気スターまで「威光」は各種各様ではあるのだが・・・・・・。
たとえば、子どもにとって先生は大いなる「威光」の存在である。
ある日、先生は教室にものものしい機械を持ち込んできた。
そうして勉強を教えるときのような口調で、こう言った。
「この機械のバルブを開けると、教室のなかに特別なにおいのガスが出て
教室全体に行きわたるようになっています。
すみずみまで行きわたるには、どのくらい時間がかかるか調べたいと思いますので
においを感じた人は手をあげなさい」
そうして先生は、バルブを開く動作をした。
すると、すぐ最前列の生徒が手をあげ
ついで第2列目の生徒たちも手をあげ
ついには教室中の手があがった。
もちろん、ガスはまったく出なかった。
先生の代わりを同級生や、ましてや下級生がやったとしたら
こういう結果にはならなかったであろう。
「インチキだ」とか「オモチャ」だと騒ぎ
ワイワイ遊んでしまったに決まっている。
〝プラシーボ効果〟と呼ばれる作用がある。
医学の分野で使われる言葉で、わが国では一般的に
〝偽薬効果〟とも呼ばれている。
たとえば、頭痛薬だといつわって、ただのビタミン剤などを与えると
その患者の頭痛が治ってしまう効果である。
プラシーボというのは、ミルクと砂糖を混ぜただけの粉末だが
研究者たちは、このプラシーボを痛みのコントロールという目的の実験のために作った。
プラシーボとモルヒネを用いて、その効果をそれぞれ比較してみたところ
モルヒネとプラシーボの効果には、ほとんど違いがなかった。
痛み止めには効くはずのないプラシーボが効いたのである。
つまり、プラシーボを与えられた患者は
てっきりモルヒネを与えられたものと思いこんだ。
そして、これで痛みはおさまる(無意識的には、おさまらなければならない)
という思いが痛みを止めてしまったのである。
この種の研究は、とくに欧米で盛んである。
統計的には、その有効率は、35%というはっきりとした数字まで出ている。
これが自己暗示の典型である。
こうした実例は、人間の心の状態がいかに肉体に影響を与えるかを物語っている。
ジェームズのいうように、「すべては観点にかかっている」のである。